TALK

刑事弁護人の私がなぜ永田町を目指すのかーー。
サイボウズ代表取締役社長・青野慶久と議論するこれからの多様な働き方のカタチ。

〜#自由に生きちゃダメですか Vol, 2 青野慶久×かめいし倫子〜

プロフィール

  • 青野慶久(あおのよしひさ)

    青野慶久(あおのよしひさ)

    1971年、愛媛県今治市出身。1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立、2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーを歴任し、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会の副会長を務める。

自由に生きちゃダメですかーー。政治家を目指すかめいし倫子が社会課題に真剣に向き合い、考える対談シリーズ。第二弾はIT企業サイボウズで代表取締役社長を務める青野慶久さん。選択的夫婦別姓裁判では原告として法廷に立ち、大きな話題になりました。この対談では、個性に合った働き方を進めるサイボウズでの働き方について話しながら、多様性のある社会に必要なことを考えます。

選択的夫婦別姓の裁判を通じて初めて知ったこと。
「今の社会は困っていることを訴えるハードルが高い」

亀石

青野さんは選択的夫婦別姓の権利を求める裁判の原告でいらっしゃいますよね。なぜこの訴訟をなぜ起こそうと思ったのでしょうか?

青野

きっかけは、作花知志弁護士との出会いなんです。作花さんは裁判を起こすために、結婚をきっかけに名字を変えて不利益を被った男性の当時者を探されていて、僕に白羽の矢が立ったんです。当時、僕は「原告」が何を意味するかもよく分かっていませんでしたけれど。

亀石

裁判の原告になるのはとても大変なこと。応援だけでなくバッシングもありましたよね?

青野

もちろん批判もされました。困っていることを訴えただけなのに「青野は左翼だ!」と言われたりもしました。それでも、さほど負荷を感じることはありませんでしたね。上場企業の社長をしていることもあって、ストレス耐性が強いんだと思います(笑)。

亀石

今の社会って、困っていることを訴えるためのハードルがとても高いですよね。選択的夫婦別姓も「選択的」なので、今まで通り夫婦同姓がよければ、それも選べますし、選択肢が増えるだけなのに。そのハードルが高いんです

青野

おっしゃる通りですよね。

亀石

夫婦同性の場合、戸籍だけでなく、保険証とかパスポート、銀行口座などの変更手続きも必要になる。しかも、男性側の姓を選び、女性が姓を改めるケースが96%です。結婚後も仕事を続ける女性が増えている中、姓の変更で受ける不利益の多くは女性が被っているんです。けれども、青野さんが原告になられた裁判では請求が棄却されてしまった。

青野

はい。まず原告になったことをきっかけに司法の勉強を始めました。僕は理系のコンピューターオタクですから、司法についてよく知りませんでした。司法は面白いですね。裁判という手続きを使って法律を変えることができるわけです。東京地裁には棄却されてしまいましたが、逆にメディアに注目されて、より多くの人に問題が認知されるようになりました。悪いことばかりではありません。

亀石

この裁判は棄却されたからこそ報道も増えたという側面がありました。私も政治家になったらぜひ選択的夫婦別姓を認める法改正に取り組みたいです。より自由な社会に向けて、人々の意識が変わっていけばいいなと思っています。

サイボウズ式「働き方」とは?「多様性のある社会とは単純なユートピアではない」

亀石

わたしが政治の現場で実現したい政策の一つに「働き方」の問題があります。残業やブラック労働をはじめ、政府が進めている「働き方改革」も私からすれば十分ではない。これだけ「働き方」が多様化してる時代なのに、全く法整備が追いついていないんです。

青野

確かにその通りですね。企業にも古い価値観がはびこっていて、変える意思がない経営者がたくさんいます。

亀石

サイボウズは、それぞれの個性に合った働き方を選択できることで「離職率を下げた」と話題です。何がきっかけだったのですか?

青野

僕が起業した当時は、シリコンバレーのベンチャー企業に憧れて起業する人が増えていた時期でした。僕もそのうちのひとりで、昼夜問わず猛然と働いていたんです。労働時間とか気にしたことがなかった(笑)。でも、ある時、ふと振り返ったら後ろでみんなバタバタ倒れているんですよ。2005年の離職率はなんと28%です。

亀石

そんな時期があったんですか。一部の人しかついていけないような働き方だったんですね。

青野

はい。ただ僕自身は毎日楽しく働いていて、辞めていく理由を理解できませんでした。そこで、一人ひとりに話を聞いていきました。労働時間、勤務地、給料、仕事の内容などなど、一人ひとりが希望することはバラバラでした。そのとき、「世の中には色んな人がいるんだ」とごく当たり前のことに気づいたんです。そうであれば、社員一人ひとりが働き方を選べる会社にすれば、誰もやめなくなるんじゃないかなと思ったんですよ。

亀石

なるほど。重要な気づきですね。

青野

サイボウズでは今、社員がそれぞれ自分に合った働き方を宣言し、周囲のメンバーと調整さえできればどんな形で働いても良いという制度を採用しています。コアタイムもないので時間帯や勤務日数、勤務地すべてが個人に委ねられていて、もちろん複業もオッケーです。実際、働き方も様々で、出社しない人もいるし、逆に会社でしか仕事をしない人もいる。週3日勤務の人もいれば、週5日勤務の人もいます。

亀石

理想的な働き方ですね。一方、経営者として仕事の評価軸はどうしているのですか?

青野

評価は、社員同士の比較はできないので、「この人が転職した時の市場価値はどのくらいだろう」という観点から考えます。市場価値は、労働時間やスキル、実績などを総合的に判断します。もちろん、評価に異議がある時は交渉できるようにしています。社員情報は勤務体制を含め、全てデータベースにしていますが、人事部はもちろん直属のマネージャーも細かいところまで把握しておく必要があるので大変だと思います。でも、その手間以上の効果がありました。ある社員が「サイボウズはなんでも交渉できるので、辞める理由がない」と言っていました。

亀石

建前ではなく本当の意味で多様性を大切にされていることが、社員に理解されているんですね。

青野

僕は、多様性のある社会こそがユートピアだとは思っていません。働く個人がしっかりと自立して主張する必要もあるし、正しく評価されるためにはスキルや実績といった情報を開示する必要もある。そうした上で初めて「多様性」というものが成立し得る土台ができるのではないかなと。

亀石

たしかに、誰かに気づいてもらう、認めてもらうという受動的な姿勢では難しい部分がありますよね。でも、そうすると、プレゼン能力やコミュニケーション能力が高い人はやっていけますが、そうでない人は難しいのではないでしょうか。

青野

そうなんです。日本人は自己主張が苦手だと思います。だからサイボウズでは、入社するとわがままを言うトレーニングをするんです。

亀石

そんなトレーニングから始まるんですか(笑)。

青野

多様な個性を引き出すには、自分が求めていることをわがままに主張し、生き方や働き方を選んでもらう必要があります。自分で選ぶと本人に責任感が生まれ、自立心が育ちます。ある会社が男性の育休義務化を打ち出していましたが、義務化をすると本人は選ぶことができません。男性の家庭進出を推し進める中では、義務化はあくまでも変化を起こすきっかけであって、最終目標ではないと思っています。

亀石

男性の育休義務化について、まさに同じ違和感を抱いていました。義務は多様性と噛み合わないと思います。青野さんは政府の働き方変革プロジェクトにもアドバイザーとして参加されてますよね。多様な働き方を容認する方向に社会が動いているようには感じますか?

青野

3年前に厚労省のプロジェクトに呼ばれた時、「複業を禁止することを禁止しよう」と何度も主張したんです。その時、そもそもなぜ日本の多くの会社で複業が禁止されているのか、厚労省の人が調べてくれたんですよ。結果、厚労省が公開している就業規則に「複業禁止」という項目があって、それを各社がコピペして自社の就業規則にしていることがわかりました。だったら、その大本を書き換えようということになり、去年2018年、厚労省は「複業禁止」の項目を削除してくれました。

亀石

そうだったんですね。今ではむしろ複業を推奨する空気になってきていますよね。

青野

複業で人脈が広がったり、社内にはないノウハウを持ち帰ってくれたり、それによってオープンイノベーションが起きたりと、組織にとっても良いことが多いのです。そして何より「やりたいことができている」という状態は、本人の幸福につながります。

亀石

本当にそうだと思います。こうして企業は働き方改革に前向きな一方で、政府の姿勢に私は疑問を持っているんです。先日、政府が一案として事業所ごとに労働時間を管理するという発表をしました。そうなると、本業より複業の方が時間を超過した場合に割り増し賃金が払われないので、人々は低賃金のままになってしまいます。実際のところ企業がこの時代に賃金を上げるのは難しいと考えますか?

青野

僕は全然難しくないと思いますよ。提供する商品やサービスの価格を上げれば、給料を上げる原資を確保できますので。経営者の覚悟の問題です。

亀石

給料を上げると提供するサービスも高くなるけど、給料上がってる分払えるようになる。そういう循環になればいいですよね。

青野

そうです。最低賃金1000円で1日8時間、月20日フルで働いて16万というのは現在の日本の物価を考えたらちょっと安すぎます。

亀石

そうですよね。今の社会って、自分たちで自分たちの首を絞めているんじゃないかと思っています。働く人数も減っているわけなので、今までより少し不便になるかもしれないけど、それを許容することが大事だと思います。

社会を変えるために必要なのは議席数とは限らない?「立憲民主党に未来があると感じました」

青野

亀石さんはどうして参院選に立候補しようと思ったのですか?

亀石

使命感のようなものを感じました。政治家になりませんかとお誘いをいただいた時、「よっぽど他にいないんだな」と思いました。つまり、いろんな事情があってできない人ばかりだと。私は家族に反対もされてないし、弁護士なので失業する恐れもない。出馬に対する障害が他の人より少なかった。目の前で困っている人を助けられる人が他にいないのであれば、自分がやろう。そう決意しました。

青野

なるほど。出馬に際して障害が少ないという理由も、使命感からという発想も面白いですね。

亀石

刑事弁弁護人という経歴は、永田町では異色だと思います。人質司法など刑事司法のことにも取り組みたいですね。なにより、働き方をはじめとして、選択的夫婦別姓や同性婚など、現在の多様化する社会で、柔軟性とスピード感をもって政治を変えていきたいんです。

亀石

統一地方選では車椅子の方やトランスジェンダーの方が当選しました。参院選の予定候補者にも同性愛を公表している当事者など、本当に多様な方がいます。わたしもそんな環境で日々刺激を受けています。

青野

立憲民主党は、多様な人たちが立候補し、それぞれの視点で問題提起していくことを大切にされていますね。枝野さんとそんな話をした時、「ここに未来があるかも」と感じました。

亀石

私も立憲民主党の一番好きなところは、それぞれをちゃんと尊重してくれるところなんです。

青野

今までの政治のように議席数を増やすことばかり考えて行動していたら、権力者や多数派に迎合するスキームから抜けられない。一人ひとりがワクワク生きられる社会をつくるには、目先の議席数にとらわれず、高い視点から考えて動くことが大切なんだと思います。

亀石

今日はお話しながら、青野さんのそうしたメンタリティーや世の中へのまなざしを実際に感じられて学びになりました。お忙しい中、本当にありがとうございました。

選択的夫婦別姓の導入や働き方改革に関して主体的にアクションを起こしてきた青野さん。これからの多様な働き方のカタチの議論を通じ、かめいし倫子が目指す社会像が見えてきた。対談の第3弾では、災害復興支援を行ってきた弁護士・津久井進(つくいすすむ)さんと永井幸寿(ながいこうじゅ)さんが登場。そもそも災害に際して弁護士はどのように奮闘できるのかーー。非常時における司法と行政の連携について意見を交わします。