TALK

固定観念から自由になるための仕組みづくりをしていきたいーー。芥川賞作家・平野啓一郎と話し合う、政治について考えるということ。

~#自由に生きちゃダメですか Vol,5 平野啓一郎×かめいし倫子~

プロフィール

  • 平野啓一郎

    平野啓一郎

    小説家。1975年愛知県蒲郡市生まれ、北九州市出身。京都大学法学部卒業。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。文化庁の「文化交流史」、三島由紀夫文学賞選考委員、東川写真賞審査員等を務めた。美術、音楽に造詣が深く、幅広いジャンルでの批評執筆や、美術展のキュレーション、音楽コンサートへの朗読者としての参加など、活動は多岐に渡る。著書に『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞受賞)、『ある男』 (読売文学賞受賞)などがある。

自由に生きちゃダメですかーー。政治家を目指すかめいし倫子が社会課題に真剣に向き合い、考える対談シリーズ。第五弾は芥川賞の受賞歴もある小説家・平野啓一郎(ひらのけいいちろう)さん。ある小説の主人公について書こうとするとき、社会的な背景について考えざるを得ないという平野さん。この対談では、現代とはどういう時代なのか考えることを通じて、私たちが普段感じている不安の要因に肉薄します。

小説家の仕事は時代の空気を言語化することーー「私たちの人生は、社会的な問題に大きく左右されうるんです」

亀石

平野さんは私と同世代ということもあり、デビュー当時からとても鮮烈な存在でした。20年間の作家人生の中では作風や文体に変化があったり、発信の形もnoteでの連載やSNSの活用に取り組んだりと、常に時代の変化の中で執筆活動をしている印象があります。

平野

僕は飽きっぽい人間なので、同じことをずっとやっていると飽きちゃう性格なんです。それに、時代の変化を意識してからかもしれません。小説家は時代の空気を言語化し、それを物語体験として読者と共有するという営みを行う存在です。時代の空気を察知する感性が重要だとずっと思っています。

亀石

なるほど。

平野

亀石さんや僕はロスジェネ世代ですよね。バブル崩壊後の就職氷河期を経験して、人生が社会状況に大きく左右されてしまうということを肌で感じてきました。だから、ある登場人物を描こうとした時に、彼・彼女が生きている社会の背景まで書かないと、その登場人物の本当の人生を描けないという思いが強くあるんだと思います。

亀石

平野さんは10年ほど前から「現代」を舞台にした小説を書くようになられています。今の世界を生きている人たちが何を思い、何に喜びを感じ、何を苦しみと捉えるのか。ずっと考え抜かれていますよね。

平野

僕は人が“生きる”という営みに直結している小説を書きたいと思ってきました。それは、小説を読むことで孤独が癒されたり、苦悩から解放されたりしてきた経験が、僕自身にあるからです。デビュー当時の作品も、舞台設定こそ現代ではありませんでしたが、あの時代の閉塞感の中から生まれた表現だったと感じています。

現代とはどういう時代?音楽や仕事について考えるのと同じように、政治についても考える

亀石

そういう営みに注力してきた平野さんにとって、現代はどういう時代に映っていますか?

平野

未来の予測不可能性がとても高い時代であると、まず言えると思います。将来を見通せないと、会社も安易に大金を使った設備投資になんて乗り出さないし、個人もお金を貯め込むしかありません。特に将来不安がこれだけ喧伝されていると。十年後に社会に出て役に立つ研究だって簡単にわからないし、個人の自助努力ではどうにもできない問題に直面しているのが現代かな、と。

亀石

私もこの社会を変えたいと考えながらも、将来が見通しづらいために方法論が明確に掴めないもどかしさに直面することばかりです。平野さんはSNSを通じて政治に関係する発言を積極的に行なっていますが、それはどういった考えからなんですか?

平野

あまり深い理由はないんです。ある環境の中で生きていると、政治はそれを左右する非常に大きな要因になりますよね。システムの決定とその運営だと思えば、わかりやすいでしょう。なので、生きていたら自然と政治に関心が芽生える。政治について発信するのは、音楽や自分の仕事といった関心ごとについて発信するのと同じ感覚です。

亀石

そういった感覚だったんですね。

平野

自分の環境をよくしたいという意味でも言うべきだと思いますね。SNSでの発信は大きな使命感に駆られてというより、あくまで一市民としてコミットメントしている感じです。一方本業である小説執筆は、勿論、やりたくてやってることですけど、使命感もありますね。責任を持って取り組んでいます。

亀石

私も今回選挙に出ると決めたのは、大きな使命感や責任みたいなものを感じたからというのがあるんです。政治に関してあり得ないようなことばかり起こっているのに加えて、それについての報じられ方や受け止められ方もおかしくて。自分がやらなければという気持ちが芽生えたんです。

平野

それは素晴らしいことですね。社会に対して一定の影響力を持てば注目もされますし、今はそのことがものすごく大きな意味を持つようになっていますよね。なので、自分の思想が受け入れられるというのはどういうことなのか、それも踏まえてどうしていくべきかはすごく考えます。

亀石

では、平野さんがnoteで連載を始めたり、作品が映像化されたりというのは、そういう考えが結実していった結果なんですか?

平野

結果的に僕の仕事に共感してくれる人が増えてきたということの表れで、自分からそう働きかけたわけではないですね。プレッシャーをかけて相手に言うことを聞かせるというのは無理があるし、好きじゃないんです。向こうが共感して自発的に動いてくれる。もちろん、こちらが動く時もそうです。それがすごく重要で、社会全体もそういった風土だといいなと思うんです。

亀石

私も同じ考えなんですが、例えば大学で若い世代の方々に向けて講演したりすると、ルールを最初から決めてもらってそれに従う方がいいと言う方も少なくないので驚くんです。自由や多様性というものに戸惑ってしまうと。もしそれが今の若い世代特有の気分なのだとしたら、すごく心配だと思っています。

平野

彼らはなぜそういった発想をするのか理由を考えて、理解しようとすることが大事だと思います。僕としては、先ほども言ったような将来不安と、あれこれ複雑化しすぎてよくわからなくなっているというのが理由としてあるのではないかと考えます。その上で、なぜ今こんな世の中になっているのか、分析し、具体的な方策を「語る」ことが大切だと思うんです。なかなか、これだ!と安定した良い道を示してくれる人はいないでしょう。「決められたルール」だと、コロッと欺されるかもしれませんよ。それは不安じゃないですか?とも訊くべきでしょうね。

亀石

確かにそもそも彼らがなぜそういった発想に至ったのか考えたり、問題意識を喚起しようと行動したり、そういう営みはとても重要ですね。

平野

例えば低賃金問題について他国との比較を行って、今とは違う社会を自分たちで作ることもできるという可能性を積極的に語るとする。そうすると、低賃金でも就職できていればそれでいいと思っている人々が、その議論を目にして考えを改めたりするかもしれない。さらに、この問題の構造部分に目を向けると、そもそも労働者の賃金を吸収して利益にするという企業の今のサイクル自体、問題だとわかるようになったりしますよね。税制の不公平もあります。

亀石

構造の部分まで考えられるようになると、問題同士が連関していることが見えてきたりもしますよね。低賃金問題であれば、社会福祉の問題と、とても密接に関わっています。「高齢社会における資産形成・管理」の報告書によると、将来国が国民の面倒をみることができなくなるとのことでしたが、そうだとしても賃金が低かったらそもそも蓄えるためのお金も得られない。

平野

解雇規制の緩和という施策がそんな労働者をさらに不安定な立場に追いやるものであるという理解もできるようになりますね。

アイディアから社会を変えていくーー「小さなレベルでもいいから、今の社会に合った生き方を考えていくべき」

亀石

こうして個人がどんどん不安定な状態になっている時代だからこそ、いろんな家族のあり方を支援する仕組みを作りたいと考えています。同性婚や養子・里親などを、制度的に支えていくことがこれから大切だと感じているんです。

平野

本当にそうだと思います。やっぱり社会保障と教育を手厚くしていくということが遠回りのように見えても社会を良くしていく方法なんじゃないでしょうか。

亀石

制度的なサポートを行うことでダイレクトに社会に対して変化を与えられるんじゃないかと思うんです。それは、司法で奮闘しても限界があるということをこれまで実感してきたからでもあります。

平野

これまでの話につながりますが、そもそも共同生活者がいないというのがすごくリスキーな社会状況になっているんですよね。従来の“共同生活は恋愛感情に基づく結婚が前提である”という価値観そのものも変化すれば1人でも多くの人が経済的・精神的に安定できるようになるかもしれない。例えば、ゲイじゃなくても気が合う男性友達で同居して、さらにその2人で、子供を育てるという形だってあっていいと思います。一つの生き甲斐になるでしょう。

亀石

固定観念から自由になると、将来に希望を感じられるようにもなれる気がします。

平野

いろんな生き方に誰もが寛容にならないと、孤独はどんどん深まるだけです。そのためには、亀石さんが考えているような制度的な支援だったり、具体的な取り組みの積み重ねが大切になってくると思います。クリエイティブなアイデアで、今よりも生きやすくなる方法を新しくみんなで考えていくと、社会がちょっとでも良くなっているという実感を持てるようになるんじゃないかな。

亀石

行政にできることが仕組みづくりなら、個人にできるのは他者に寛容になったり、そういったアイディアを考えるということになるのかもしれません。

平野

原発で電源を確保しないといけないとか、家族は三世代同居しろとか、旧来のやり方に戻ろうとしても、それが今の社会に適合するはずないんです。それ自体、短い歴史しかないですし。そうした押し付けで心理的にも追い込まれてしまうくらいなら、全員で新しい生き方を模索し合っていくべきですよね。

亀石

そう思います。凝り固まっている世の中を少しでも変えていきたいという使命感が、さらに強まりました。今日はお忙しいところ本当にありがとうございました。

一市民として政治について考えるとはどのようなことなのか、職業を通じて社会に何かを訴えていくとはどのようなことなのか。社会の構造にまで視野を広げる重要性など、社会を変えるために個人ができる取り組みについて語り合いました。次回の対談シリーズ第六弾では、NPO法人D×Pの理事長を務める今井紀明さんが登場。寄付金だけで若者支援を成り立たせる方法とは?10年先まで見据えた人々のセーフティネット作りについて伺います。