TALK

政治家にできるのは、大きな視点から社会を底上げする政策をつくることーー。認定NPO法人D×P理事長・今井紀明と考える、社会で孤立しないためのコミュニティづくり。

~#自由に生きちゃダメですか Vol,6 今井紀明×かめいし倫子~

プロフィール

  • 今井紀明

    今井紀明

    認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。大阪の専門商社勤務を経て、2012年にNPO法人D×Pを設立。「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を目指して、通信制や定時制高校などに所属する10代で生きづらさを抱える若者支援のコミュニティーをオフラインとオンラインで作っている。NPOの資金調達や事業作りを実践的に学んでいくオンラインサロン「未来ラボ」運営。NPO支援の会社として株式会社SOLIOを2018年11月に設立。

自由に生きちゃダメですかーー。政治家を目指すかめいし倫子が社会課題に真剣に向き合い、考える対談シリーズ。最終回となる第六弾は認定NPO法人D×P(ディーピー)の理事長を務める今井紀明(いまいのりあき)さん。引きこもりになってしまっている生徒の支援を通じて、全国規模のコミュニティーを作っている今井さん。この社会で生きていくために必要な持続性のあるセーフティネットとは?2030年を見据えた若者支援や、それを下支えする経営方法について、伺います。

オンライン、対面と形を限定しないつながり作りーー「ひとりひとりと向き合いながら、その子が前向きな気持ちになれる流れを作っていきたいんです。」

亀石

D×Pで働いているスタッフさんも、バックグラウンドとして引きこもりを経験されている方が多かったりするんですか?

今井

僕も経験していますし、11人いるスタッフのうち、引きこもりや鬱の経験があったり、身近な人が障害を持っているスタッフもいます。いろんな企業からの転職組が多く、NPO出身者は少数です。うちで研修を重ねて頑張っているスタッフも多く、キャリアコンサルタントの資格を持っているメンバーもいて、いろんなスタッフがいます。

亀石

そうなんですね。NPO出身者の方が少ないというのは意外でした。

今井

卒業生で「D×Pで働きたい」と言ってくれる子もすごく多いです。自分の経験から、同じ境遇の誰かを支援したいという思いが芽生えるようです。ですが、やっぱり支援職というのは技術的にも求めるハードルが高いので、ファーストキャリアとしては難しいと思っています。

亀石

そうですよね。働いた経験があったほうがいいですよね。

今井

そう。「もっと社会で経験積んでからね」という話をします。でも、ボランティアやサポーター、寄付者になってくれている子はいます。うちはツイッターやフェイスブックを経由して応募してくれるボランティアさんが本当に多くて、350人くらいいるんですよ。

亀石

すごい人数ですね!

今井

不登校や高校中退を経験した人が多いんです。あとは教育に関心がある人。年齢的には30代前後の人が多いですね。僕たちの活動が関西メインなこともあり、ボランティアも8割が関西の人ですね。

亀石

ボランティアはどんな形で活動に関わっているんですか?

今井

僕たちの行なっている活動は、①孤立している生徒たちとつながる場を作る ②仕事が必要ならばニーズに合わせて紹介する ③住む場所を提供するの、3種類に分けられるんですが、ボランティアが主に関わっているのは①の部分で授業でつながります。

亀石

なるほど。授業にもいろんな形があると思うんですが、どんな内容なんですか?

今井

基本的に少人数なので段階を踏みながら進めます。プログラムは、生徒とつながるということが目的です。なぜかというと、うちにやってくる子たちの多くは「そもそも大人に対する信頼がない」のです。信頼関係の構築が最初のステップです。

亀石

学校の先生や親など、身近な大人に不信感を抱いているんですね。

今井

はい。なので、社員とボランティア数名、生徒で少人数のチームを組み、大体3対1の比率になるようにして、毎回このチームで同じ授業に出るようにしているんです。最低でも4回。この経験を通じて、徐々に生徒と関係性を築き上げていきます。

亀石

少人数だと距離も近くて打ち解けやすいですよね。

今井

授業には自分の過去の話や仕事の話を話し合いながら、お互いの関係を深めていきます。最近は卒業生が自主的に、ゲーム部という部活を運営するようになって、それで横のつながりが深まるなど、共通の体験を通じて打ち解けていきます。

亀石

卒業生が横のつながりづくりに協力してくれているんですね。

今井

そうなんです。ゲーム部の活動内容は事務所にプロジェクターを出して2〜30人でわいわい色んなゲームをするだけですが、ゲーム好きな子が本当に多いし、仲良くなりやすいみたいなんですよ。この部活からゲーム攻略会社に就職した人も5人います。

亀石

そんな形もあるんですね!基本的には、高校卒業して就職するというコースだと思うんですが、気持ちが変わって進学を希望する人もいたりするんじゃないですか?

今井

いますが本当に少数ですね。就職した後に自分で大学に行った子はかなりいますが、卒業生の多くは就職します。よりサポートを必要としている生徒に特化したいという思いから、通信制高校、定時制高校の生徒中心に切り替えたんですが、それによって就職率も上がりました。

亀石

なるほど。

今井

定時制高校、通信制高校、そして就職先となる企業さん100社と提携して、生徒たちの就職をサポートしています。最近は僕たちの理念に共感してくれた企業からの問い合わせもすごく増えていて有難いです。

ただ、全日制高校の子や引きこもりのサポートはオンラインを通じて行い続けています。オンラインでやり取りをしていて次第に事務所に来てくれるようなパターンもあるんです。

亀石

確かに考えてみると、突然連絡して事務所を訪ねたりするのはハードルが高い場合もありますよね。

今井

そうなんです。当たり前ですが、引きこもりの子たちにもやっぱり気持ちの波があるんですよね。どうしても積極的になれない時もあれば一気に何かに乗り出す時もあって。オンラインや対面などいろんな形でひとりひとりと向き合いながら、その子が前向きな気持ちになれる流れを作っていきたいなと考えているんです。

亀石

それぞれのペースで少しずつ、踏み出してゆくのですね。

活動費の9割は寄付ーーNPOの活動に興味を持ってもらう方法と、若者支援を行うために何より大切な経営体制

亀石

活動のほとんどは寄付で成り立っているそうですね?

今井

9割は寄付です。去年の決算は7800万円ほどでしたが、そのうちの7割が純粋な寄付で、残りの2割が財団からの助成金でした。

亀石

驚くべきことだと思います。今井さんが行っているチャリティーランなどの企画は印象的です。

今井

現状こういう活動に関心を持ってくれている人って、すごく限定されている気がするんです。そのパイをさらに広げていくためにどうしようと考えたときに、チャリティーランのような企画が浮かびました。

亀石

砂漠を走るんだ、音楽フェスがあるんだ、という気づきをきっかけにD×Pの活動を知っていくという経路を作れますよね。

今井

最近だと、来た人が気軽に寄付できる「KIFU BAR」という飲み会を寄付者さんが主催してくれて行いました。形として面白かったし、間口も広いなと感じましたね。

亀石

ユニークですね。今後も寄付を主な資金源にして活動していくんですか?

今井

基本的にそう考えています。というのも、例えば行政と一緒にやるとなると目標が進学・就職に絞られてしまう可能性が高いんです。でも、生徒の進路は多様なので、それを叶えてあげるために自分たちで成果指標を設定できるようにしたいと考えています。

亀石

予算付きで目標を設定されてしまうと、自由度は下がってしまいますね。

今井

そうなんです。もちろんケースによっては行政と組んだ方がいい場合もあるので、基本方針はありつつその都度検討する形をとっています。

亀石

ケースによって検討が必要なのは大変そうですね。

今井

一見自由に動いていると思われがちなんですが、経営面ではやはり苦労が多いですね。そもそも寄付型のNPOは駆け出しだと融資してもらえなかったりして、資金繰りで苦労している団体は少なくないはずです。

亀石

私も法律事務所を自分で経営しているので、経営面の難しさは共感します。D×Pはたくさんのスタッフさんが関わっているので、責任も重大ですよね。設立してから8年ですが、振り返っていかがですか?

今井

一応右肩上がりではあるんですが、順風満帆とは言い難いです。最初の4年間、僕はドヤ街にある2畳半の家に住んでいて、極貧生活でした。自分よりスタッフの給料を高く設定したかったし、僕個人は給料がほぼないどころかマイナスでした。でも、今はいい経験だったと思っています。

亀石

8年間の試行錯誤があって、徐々に活動を安定させられてきたという経緯があるんですね。活動を充実させるためには、経営面が最も重要になってくることを痛感します。

重要なのはつながることだけではなく、つなぎとめておくことーー何かあった時に帰れるコミュニティを作りたい。

亀石

これからD×Pの活動はどのように展開しようと考えているんですか?

今井

2030年を見据えた長期ビジョンを持っていて、10万人の若者が希望を持っていきるコミュニティを作りたいと考えています。

亀石

目前に迫った2020年ではなく、2030年に向かっているんですね。

今井

今の政府の様子や予算の使い方を見ていて、国の政策としての若者支援は今後どんどん減っていくんじゃないかと思っています。なので、高校中退、不登校、引きこもりといった状況にある若者たちが100万人いると言われている中で、少なくともその10%に当たる10万人と繋がって、彼らの最低限のセーフティネットを作りたいと考えています。

亀石

目標としての10万人なんですね。

今井

はい。10代を中心的にサポートしていきたいと思っています。そのための方法を逆算して考えていくとかなり難しい局面もあるとは思うんですが…。

亀石

国の若者支援が先細りしていくという予測がある一方で、最近は中高年の引きこもり問題が顕在化してきました。こちらは深刻度のわりに、手付かずにも見えます。高齢の引きこもりについては何かお考えがありますか?

今井

かなり深刻だと思っています。若者支援の対象は39歳までだと思うんですが、孤立や引きこもりという問題に対して年齢層を限定せずにアプローチする省庁なり機関なりが必要だとかなり切実に感じています。

亀石

D×Pは若者支援を行なっていますが、周囲のNPOなどで中高年を対象に支援活動を行なっている団体は今のところ見当たりませんか?

今井

僕が知る限りではないですね。ホームレスのような生活支援が必要なレベルの方に向けたものなら福祉の領域で対応してきました。でも、今問題になっているのは、それには該当しない人たちの引きこもりや孤立です。ただ、この問題に取り組みたいとNPOレベルで動き始めても寄付モデルでは成り立たないことが容易に想像できるんですよ。

亀石

これらの施策を新たに作っていく必要がありますよね。

今井

そうです。だから、国がテコを入れていく必要性があると思っています。実際は機能してないそうですが、イギリスの孤立担当省のようなものを作って、就職支援などではなく孤独に対する支援をしていく必要があるはずです。

亀石

支援自体もですが、まずはなぜそうなったのかをよりしっかりと考えていくプロセスが大切だと思います。

今井

そこが手薄であることが、本人たちへのアプローチを難しくしている側面もある気がします。本当に一人一人家庭訪問したり、ツイッターで拾い上げたりということをしないと隠れている引きこもりの人をまず見つけ出すことすら困難です。中高年の方がアプローチ部分は難しいのではと感じています。

亀石

先ほど国レベルでのテコ入れが必要だと仰っていましたが、現在はそういう方への支援も含め、国の福祉に対してどのような印象をお持ちですか?

今井

若者支援に熱心な議員さんはいますね。予算をつけたり法律を整備して、自治体にそれを義務化させたり。いろんな観点からの支援がありますが、福祉の領域に限定せずとも、例えば最低賃金を上げるだけで貧困の改善につながって、じわじわ社会全体を底上げすることができますよね。それはやはり政治家にしかできないことなので、期待しています。

亀石

経済的な困窮と孤立という問題は密接に関係していますよね。単身で生きていることがリスキーな社会になってしまっていて、それを改善するための方法のひとつが、今井さんがずっと取り組まれているセーフティネットづくりであり、より大きな観点からの改善は国が担っていくべきなんだと思います。本日はお忙しいなか貴重なお話本当にありがとうございました。

活動を軌道に乗せるためにファイナンス面の試行錯誤も続けながら、若者支援を通じてコミュニティを作りに尽力してきた今井さん。セーフティネットにもなるコミュニティ作りが今の時代になぜ大切になってくるのか。また昨今深刻化している中高年の引きこもり問題も含め、社会全体の孤立問題についても考えることで、政治家にしかできないサポートも方法も見えてきました。家入一真さんにお話を伺った第一弾から、各回異なる視野を持って社会問題について学んできたこの連載シリーズ。リアルな声に耳を傾け、議論を重ねてきたことで、民意を汲み取るとはどういった営みなのか、皆さんとともに考えてくることができました。「自由に生きちゃダメですか?」このメッセージを掲げ、今こそ政治が、皆さんの声に応えていきます。